ケープタウン → セダーバーグ → ナマクワランド・ループ
この旅で出会う14の物語です。GPS音声で案内される歴史・文化・自然の解説を、ここでは文章でひと足先にお楽しみいただけます。
野の花シーズン・ブリーフィング
野の花をしっかり見るなら、この3つだけ覚えて出発前ブリーフィング
今回のルートはマラリアもなく、ほとんど2WDで回れる気楽なループです。ただ、花をしっかり見るにはいくつかコツがいります。一つ目、野の花は午前10時から午後3時の間がいちばん大きく開く時間帯です。曇りの日は花がまったく閉じてしまうので、晴れた日の日中に合わせて移動してください。二つ目、花はシーズンの初めにケープタウン近くから咲き始め、シーズンが深まるにつれて北のナマクワランドへ広がっていきます。8月中旬から9月初めがピークです。三つ目、移動の方向も大切です。花はいつも太陽の方を向いて咲くので、北から南へ下りながら見るほうがずっと観察しやすいんです。そして、雨が降った翌日によく晴れた日こそが最高の花見日和だということも覚えておいてください。
セダーバーグ
山の名前になった木、でも絶滅寸前
この山の名前「セダーバーグ」は、ヒノキ(シダー)の山という意味です。この山岳地帯だけに育つ固有種、クランウィリアム・シダーから取られました。ところが19世紀から20世紀にかけて木材用の伐採でこの木が急激に減り、今では当の山の名前の主役が絶滅危惧種になってしまいました。いま山を登りながら出会うシダーの一本一本が、かつてこのあたりを埋め尽くしていた森の最後の名残なんです。
風が何万年もかけて削り出したアーチ
このアーチは人が造った構造物ではありません。砂岩が何万年にもわたる風と雨の風化で削られてできた、天然のアーチです。今もゆっくりと形が変わり続けているので、いま見ているこの姿も、何千年後にはまた別の形になっているかもしれません。
クランウィリアム
薬草茶が世界的な産業に
ルイボスは、クランウィリアムを囲むこのセダーバーグの山岳地帯にだけ自生する植物です。先住民や初期の入植者たちは長い間、この植物をただの地元の薬草茶として煎じて飲んでいましたが、20世紀に入って商業的な栽培と加工が始まると、クランウィリアムは世界のルイボスティー産業の中心地になりました。一つの地域にしか自生していなかった植物が、今では世界中のスーパーの棚に並ぶ飲み物になったんです。
スプリングボック
コーンウォールから渡ってきた鉱夫たち
いま通っているこの乾いた砂漠の町、スプリングボックとオキエップ一帯を見てみてください。今はただの荒涼とした原野に見えますが、19世紀にここで銅の採掘ブームが起きたときは、まったく違う風景でした。イギリスのコーンウォール地方で代々鉱山の仕事をしてきた熟練の鉱夫たちが、「カズン・ジャックス(いとこのジャックたち)」という愛称で呼ばれながら、地球の反対側のこの砂漠まで渡ってきたんです。何か月も船に揺られてやって来て、自分たちが知っている鉱山技術をこの見知らぬ土地にそのまま根付かせたんですね。そして不思議なことに、その痕跡が今も残っています。今でもこの地域の一部の家系の姓を調べると、コーンウォール系の血筋の名残が見つかるそうです。アフリカの砂漠の真ん中に、イギリスの田舎町の文化がそのまま移植されたわけです。想像してみると、なかなか不思議で面白い組み合わせだと思いませんか?
消えたアンテロープの大移動
この町の名前、スプリングボックは、実はアンテロープ(レイヨウ)の名前から来ています。19世紀までは、この一帯で「トレックボッキング」と呼ばれる壮大な光景がたびたび見られました。スプリングボックの群れが何十万頭も連なって、何日もかけてこの原野を横切っていく光景です。想像もつかないほどとてつもない規模だったそうです。でも今では、そんな大移動は見られません。農場を仕切るフェンスがあちこちに建てられ、無秩序な狩猟が続いたことで、その壮観は完全に消えてしまったんです。いま私たちに残っているのは、そのアンテロープの名を冠した町ひとつだけ。かつて大地を埋め尽くした命の波が、今では地名の中にだけ残っているわけです。
ナマクワランド
ハーフメンス — 「半分人間」の多肉植物の伝説
車窓から、妙に片側へ首をかしげたように伸びている木を見かけたことはありますか?この植物は「ハーフメンス」、日本語にすると「半分人間」という意味を持つ、この地域固有の多肉植物です。ナマ族の伝説によると、はるか昔、戦争と干ばつを逃れて北の故郷を捨て、南へ逃げてきた人々がいたそうです。神は彼らを哀れに思い、半分は人間、半分は植物にしてやった——それがこのハーフメンスなのだとか。だからこの植物は今もいつも頭を、つまり茎の先を、北の失われた故郷の方へ傾けて育つと言われています。
リヒターズフェルト — 今も続く遊牧の暮らし
このナマクワランドの北には、リヒターズフェルトという地域があります。ユネスコの世界遺産に登録された、とても特別な場所です。ただ、ここが世界遺産になった理由はちょっと独特なんです。雄大な自然景観のためではなく、ナマの先住民が何百年も同じやり方で羊やヤギを連れて季節ごとに移動しながら暮らす、その暮らし方そのものが「生きた遺産」として認められたんです。「ハル・オムス」と呼ばれる、亀の甲羅のような形の移動式テントの家も、今も実際に使われています。
ゴエガップ自然保護区
狩猟で消えた動物たちが戻ってきた花崗岩の庭
ゴエガップ一帯は、かつて無秩序な狩猟でスプリングボックやゲムズボックといったアンテロープが大きく減った土地です。1970年代に保護区に指定された後、この花崗岩の峰々の間の乾いた土地に、およそ45種の哺乳類が再び住み着きました。人が壊した生態系を、人が保護区として守ることで取り戻した、小さいけれど確かな回復の例です。
いつも頭を北へ傾ける「半分人間」の植物
ここゴエガップにも、ナマクワランドのあちこちに生える「ハーフメンス」、半分人間の多肉植物が育っています。ナマ族の伝説によると、戦争と干ばつを逃れて故郷を捨てて逃げた人々が、神の哀れみによって半分は人間、半分は植物に変えられた姿がこの植物なのだそうです。だからこの植物は今もいつも頭を北、失われた故郷の方へ傾けて育つと伝えられています。
スキルパッド(ナマクワ国立公園)
一つの盆地が砂漠を花畑に変える
スキルパッドは1988年、WWFがナマクワランドの花の王国を守るために特別に設立した保護区です。ここがナマクワランド全体の中でもとりわけ華やかな花の展示を安定して見せてくれる理由は、地形にあります。盆地の形をした地形が大西洋から押し寄せる冷たい海霧を閉じ込めるため、ほかの場所よりずっと安定して水分を保てるんです。同じように乾燥したナマクワランドの中でも、この一つの盆地が毎年いちばん華やかな花のじゅうたんをつくり出す秘密なんです。
砂漠なのに植物がいちばん多様な場所
ふつう砂漠は植物の多様性が低いと思いがちですが、この地域は正反対です。「サキュレント・カルー(多肉植物のカルー)」という独特の生物群系に属するこの土地は、地球上で最も多様な砂漠の植物相を持つ場所とされています。乾いてやせて見えるこの土地が、実は世界のどの砂漠よりも多様な命を抱いているんです。
ホンデクリップ・ベイ
「犬の石の湾」という名前、そして消えた港
この村の名前「ホンデクリップ」は、アフリカーンス語で「犬の石」という意味です。海岸にある犬の形に似た岩から、この名前がついたと伝えられています。20世紀初めにダイヤモンド採掘のブームが起きると、この小さな湾は一時にぎやかな港として栄えましたが、鉱脈がほかの場所へ移ると、あっという間に今のような静かな漁村に戻りました。いま見えるこの静かな海岸には、かつてにぎわった港の面影はほとんど残っていません。
リヒターズフェルト
川一本を挟んだ二つの国の公園が一つに
この川の向こう側はナミビアです。リヒターズフェルトはオレンジ川を挟んで、ナミビアのアイアイス温泉保護区と向かい合っています。2003年、両国が協力してこの二つを一つのトランスフロンティア、国境をまたぐ公園に統合しました。川を渡るフェリーが二つの区域を結ぶ唯一の通路なのですが、このフェリーは川の水位によってたびたび運休します。ですから二つの国を一つにまとめたものの、実際に渡るのは今もなかなか大変なんです。
